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神崎 洋治『シンギュラリティ』(創元社)

「サピエンス全史」と「ホモ・デウス」を世に著したユヴァル・ノア・ハラリ氏が、人間至上主義を信奉する現代人が到達すると語る、シンギュラリティ。

 

元々は、人工知能研究の第一人者であるレイ・カーツワイル氏がtechnological singularityという言葉で人間の未来を概念化したもので、「技術的特異点」と和訳されているこの言葉は、前向きにも後ろ向きにも解釈されています。

 

本書では、シンギュラリティを「人工知能が人間の知能を超えることにより社会的に大きな変化が起こり、後戻りができない世界に変革してしまう時期」、さらには「人間にはそれ(AIの登場)より先の技術的進歩を想像することができない世界」と解釈しています(同12p)。

 

「シンギュラリティ」以外にも、人工知能を理解する上で重要なタームがいくつかあり、本書はそれをわかりやすく説明しています。ここでは主だったものをごく簡単に紹介してみます。


現在のAI、あるいはシンギュラリティを理解する上で簡単なのは、人工知能の目指す到達点を把握することであり、それは「人間と同じ知能を持つコンピュータ」を作ることと言われています。この領域に達したコンピュータは、汎用人工知能(artificial general intelligence, AGI)と表現されています。

 

現在のAIは、AGIの領域には達しておらず、以下で解説する、ディープラーニング人工ニューラルネットワークなどを組み合わせた高性能コンピュータを主に指している、と解釈できます。

 

人工ニューラルネットワーク(artificial neural network, ANN)とは、人間の脳の機能、すなわち神経細胞であるニューロン神経伝達物質であるシナプスなどに似た学習プロセスを持つコンピュータを指します。

 

従来のコンピュータには、人間が行なっている経験を積み重ねていく自律学習ができませんでしたが、外部情報を階層化することで、人間のように賢くなっていくことができるようになっています。ただ、現段階においては、この自律学習は数式データ(アルゴリズム)をコンピュータに覚え込ませることで、処理能力を高めるという手法が取られており、これを機械学習、特に深層学習(ディープラーニング)と呼んでいます。

 

高性能コンピュータには、従来のコンピュータの頭脳である中央演算装置(central processing unit, CPU)だけではなく、高性能計算により画像を高速処理できるグラフィックスプロセッシングユニット(graphics processing unit, GPU)という頭脳も採用しています。GPUは、ディープラーニング人工ニューラルネットワーク構築のための基盤と言えます。

 

人間であれば自らの経験がなくても周りの人の行動を反面教師にしたり、インターネットなどの情報媒体を通じて多角的に学習できますが、現在のコンピュータにはその人間にとって当たり前な学習方法が限定されています。

 

そもそも私たちの「言葉」はコンピュータに理解できません。また、私たちが「感覚的に理解」している画像情報も理解できません。一般論として、人間同士なら「こことここの文章はこうなっていて、ここにはこれが写っていて、こういう位置関係にある」ということを、五感を通じ認知情報として相互共有できます。

 

このような人間同士なら共有できる情報は、データベースのようにコンピュータが認識できる「構造化データ」と区別されて、「非構造化データ」と呼ばれており、音声情報もこの非構造化データに属する情報です。

 

しかし、音声情報について言えば、例えば私たちが自分のスマホインターフェイスの1つであるAppleのSiriやAndroidGoogleアシスタントを使い続けると、自分にとってより使いやすくなるように、現在のAIはたいへん便利なものになっています。

 

AGI時代の到来はまだですが、本書には急速に成長するAIロボットが様々紹介されています。

 

今後は、AIの活用についての法整備もさることながら、私たち人間の環境整備も必要になる時代がもうそこまで来ており、ハラリ氏も言うように人間の存在に関わる生命や意識が問われるようになります。また、ヒューマノイドが感情を持つようになれば、人間のより親密なパートナーになり、デジタルで再現した擬似的なホルモン分泌で怒り、悲しみ、そして苦悩するようになるかもしれません。

 

本書では、ソフトバンクのpepperを事例に挙げ、「人の業務を支援することが期待されて導入されたロボットには、必ずしもロボット自身の感情は必要なものではなく、必要なのは相手の感情を理解する技術だということ」と解説しています(同p177)。

 

シンギュラリティは「良し悪しとは関係のない、新たな常識を産む時代」の到来とも言えます。これまでにも人間はそのような時代を経験しています。しかし、今回は人間の存在そのものが新たな常識により問われることになり、人間の明日に対する期待と不安が交錯している、ということなのだと思います。

 

ICTの今を知ることができる良書でした。